三文小説 文集パラレルワールド①~④
文集パラレルワールド
①MCGスクールとの出会い(6/22公開)
山木は、大企業の傘下子会社に勤める23歳のOLだ。
4年ぶりの新入社員として会社では歓迎され、残業代も出るので周囲からはなかなか良い会社に入ったね、と言われていた。安定したお給料と大企業並みの福利厚生は確かに居心地がいい。
しかし山木は大学四年生の時、志望していた出版業界に就職できず、悩みに悩んだ挙句、全く業種の違うこの会社に入社したのだった。社会人2年目を迎えて、出版業界への憧れは募るばかりだった。
ある日、インターネットで関西一のマスコミ学校MCG(Mass
Communication Gakko)スクールのホームページが目に止まった。講義は半年間、土曜日の午後に行われる。出版業界で活躍する編集長やライターなど、プロの講師陣による指導が受けられ、異業種から出版業界へ転職していく人も多いらしい。半年の講義費用は16万円。少し前に始めた乗馬の入会費が10万円で、さらに月々1~2万円を払っていることに比べたら、何て安いんだろう。転職するにはこの機会しかない。
「何かを入れるには、何かを出さなければいけない」
すぐに乗馬クラブを退会し、MCGスクールへの入学を決めた。
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②卒業文集の誘い(6/23公開)
MCGの同期生は非常に個性的だった。元No.1ホステス、プロのモデル、20歳にしか見えない30代半ばのシングルマザー、車椅子の女の子。30代前半の社長、プロのスタイリスト、30代の旦那気質の自由業者、映画業界出身の公務員。旦那気質の島村を中心に、クラスは前代未聞の盛り上がりを見せた。
そしてあっという間に半年が過ぎようとしたある日、山木は島村に声をかけられた。
「クラスの卒業文集を作ったら面白いと思わない?」
山木は、大学でフリーペーパーを制作していた経験があった。MCGに通ううちに、漠然と誰かのために、何かを作りたいという思いと、でも何を作ればいいのだろう?という焦りが募っていた。
山木は二つ返事で一緒にやらせて下さい、と言いたいのをぐっとこらえ、島村に詳しく話を聞くことにした。
山木は今、会社の繁忙期ではないが、異動の多い季節であり、会社の歓送迎会に参加しなければいけない日が多いことを伝えた。島村は非常に忙しいので、タイトなスケジュールで、全力を尽くさなければ発刊には間に合わないだろうと確認し合った。
二人はまず発刊日を暫定で決め、それを考慮して中間締切日を設定し、その締切に間に合わない限りは、山木が会社の歓送迎会はもちろん、会社を休んで作業に専念することなどを話し合った。また、発生する費用は文集の販売代金で回収するが、もし不足が出た場合は、島村と山木とで2分割して負担することを約束した。
こうして、後々のトラブルを回避するために十分話し合った後で、一緒に卒業文集を制作する約束を交わしておいた。
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③文集の告知(6/28公開)
MCGの講義は残り数回だったので、急いで行動を起こさねばならなかった。島村が描いていたのは、各受講生が就職活動に使えるような作品ポートフォリオだった。しかも、著名人の講師のお墨付きとなれば、読み手の興味をそそるに違いない。
クラスメイトからアンケートや作品を募集するため、文集自体の告知をした。あまり表に出たがらない島村は、その役割を山木に任せた。そして同時に、もし制作委員として参加したい人がいれば一度話そうと言った。
山木は、何か行動を起こす時、人数が増えれば機動性が落ちることを学んでいたので、島村に2人ぐらいの人材が入れば適当かと尋ねた。島村はそれぐらいになるかもしれないが、その人の能力ややる気、貢献できそうかなどを考慮して決めたいと言った。
そこで、参加の要望を受けても即決はせず、こちらの趣旨や相手の状況などを話し合った後で、個別に返事を出す方法を取ることにした。
また、委員が増える前に、指示系統を明確にさせておかなければならない。
山木は、大学時代のサークル活動とは違うことを肝に命じた。
島村が編集長で、企画、配布、費用全てにおいての最終決定権を持つことを事前に明確化しておいた。山木はillustratorでの誌面製作を第一の業務として、同時に、島村とクラスメイトの連絡を代理するという役割を確認した。
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④掲示板投稿(6/28公開)
文集の企画説明は、クラスメイトが参加するSNSの掲示板に掲載し、参加者を募った。参加者には、「重要事項説明書」と島村が題した書面の内容を確認させた。
木山は、学生時代は集計に手書きのメモを使用していたが、今では社会人になったので、エクセルを使い、全ての集計を一つの表にまとめていった。項目は、文集参加、重要事項説明書読了、アンケート配布、アンケート提出、作品提出、などであった。
連絡係である木山は、各項目に締切を設け、対外的には2日前を締切として連絡した。移動時間や会社の休み時間をフル活用し、返事を催促していった。クラスメイト全員のメールアドレスと電話番号を登録すると、作業効率が向上した。島村との打合せではいつも最新の状況をプリントアウトして持参し、一目で参加者の状況が分かるようにした。
文集委員には、10人近い申し出があったが、本人のスケジュールなどと照らし合わせ、結局、漫画のうまい女性、杉山と、やる気に満ちた社会人1年目の男子、上島の2人が委員になることが決まった。
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⑤ 連絡役としての仕事(7/11公開)
島村がSNSの掲示板に、募集要項を書き込んだ。問い合わせ窓口は連絡役の木山となっている。
木山のもとに、クラスメイトの佐藤から連絡が来た。佐藤は地方に住んでおり、MCGには新幹線で毎週通って来ている熱心な受講生だ。いつもお金がない、と言っており、この時も、自分の冊子は大幅カットバージョンで安価にしてくれないか?また、出版記念パーティーも途中参加なので割引してくれないか?という依頼だった。
木山は、全体の混乱を招くことを恐れ、断ろうと思った。急ぎの問題ではないと考え、こちらからは島村には連絡せず、次に島村から連絡が来た時に、佐藤からの依頼内容を報告し、断るつもりだと告げた。島村は、「分かった」と一言返答し、この話題が二人の口に上ることは、二度となかった。
木山が佐藤の依頼を断ると、佐藤はそれ以上粘ることはなかった。しかし1週間後、正規の値段で参加したいと連絡が来たため、島村に報告した上で承諾した。
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